秋の詩
先日お施主さんから、京都の聖護院八ッ橋総本店の生八ツ橋をいただいた。

食べ終わってふと捨てようとした箱の中に一枚紙が入っていた。
商品説明くらいに思いながら、何気なく一行二行と読んで、『あら!素敵!』・・・

さりげない中に、商品への愛情と丁寧さを感じ、暖かい気持ちになったので紹介します。

《時雨》

 朝から降ったり止んだりの空模様ではあったのだが、外に出る時分に晴れていたことに甘え、傘を持たずに出かけた。 残念ながら、というか矢張りというか雨になった。
 下宿まであと少しではあったのだが、八ッ橋屋の軒下で雨をよけることにする。 暫く眺めていると、だんだんと雨が水では無いものに見えてくるのも不思議であった。 秋の雨は細かい為かも知れない。

 「雨宿り、ですか」
がらりと扉の音をたてると、暖簾の脇に八ッ橋屋の男が現れる。
「お借りしています」
頭を下げると、傘を貸そうかと尋ねてくれる。 取り立てて急ぐ用事も無い自由気儘な学生の身であるので、雨を眺めることにして断った。

 「では、こうしましょうか」 
八ッ橋屋は一度奥に戻ると、長椅子を出してくれた。 二人で並んで、軒下から雨を眺めようと腰を掛ける。
「ああ」
思わず声をあげてしまった。
「こんなもんですわ」
八ッ橋屋も笑う。

 雨を鑑賞するための設えであったのだが、腰をかけた時にはもう雨は止んでしまっていたのだ。 細かな雨なので途切れる瞬間がわからない。
「さすが、なんとやらと秋の空言う」
「まさに」

 せっかく出してきたのであるからと、私と男とは並んで雨上がりを観ることとなった。 奥からさらに八ッ橋と茶とが出された。
 雨上りの路面もまた、ところどころに鋭い光が走って美しいものである。

 「風流なことで」
通りかかった女性が声をかけてきたと思えば、大家であった。
「雨に逃げられまして」
「あら。またすぐに戻らはると思うけど」
 微笑んで手を翳すと、大家は蛇の目を広げる。 はて、雨の気配は無いと思ったがと空を見上げると、途端に蛇の目を水が打つ音が聞こえ始めた。
 「ほらここに」
成る程、時雨とはこのように変わりやすいかと、また水では無いかのような雨を観る。 肌寒い雨であるので、熱い茶が嬉しかった。
 「矢張り、女性の方がわからはるんやな」
八ッ橋屋が呟いた。
 「秋の空、ですからね」
大家は涼しげな足取りで、ぱらぱらと音を鳴らす蛇の目を持って歩いていた。

                              聖護院八ッ橋総本店:秋の詩より引用
[PR]
by presente | 2009-11-06 13:40 | 季節を感じて
<< OPEN間近・・・ OPEN HOUSE >>